SHISEIDO WINDOW GALLERY<水>の章 2018

期間 : 2018年10月18日〜2019年年1月15日
場所 : SHISEIDO THE STORE

CREDITS
Art Direction : ミヤケマイ
Artist : トラフ建築設計事務所
Artist : BUAISOU

撮影 : 繁田諭

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作品解説(SHISEIDO THE TABLES)

ミヤケさんと建築家、工芸家の3者による「水」の作品
カレンダーも残すところあとふた月となると、急に時間の流れが加速するように感じます。これからやってくるさまざまなイベントを期待させる装いが、街のあちこちで輝き始めるのもいま。寒さとともに心が浮き立つ私たちの気持ちに寄り添うような作品が、SHISEIDO THE STOREのウィンドウに登場しています。1年を締めくくるテーマは五行の要素のひとつである「水」。ミヤケマイさんは水の姿のひとつである「雪」をデザインモチーフにし、時間の流れを水の流れに重ねてストーリーを紡ぎました。今回の参加アーティストはトラフ建築設計事務所と、徳島で藍の栽培から染色や作品制作まで一貫して行うユニット・BUAISOUの2組です。ともにミヤケさんとはプロジェクトを手がけてきた旧知の仲でもあり、現代美術家、建築家、工芸家のそれぞれの持ち味がバランスよく交差した作品になりました。

藍染がつくる暖かな雪の風景
中央通りに面したウィンドウには、屋根にふんわりと雪の積もった家を中心に、グラフィカルなシーンがつくられました。ゴールドとシルバーの細い角パイプでつくったフォルムはトラフによるデザイン。立体感をつけたフレームを浮遊させた「家」からは、シャープさと軽快さを感じます。屋根には藍でろうけつ染を施したコットンサテンが張られました。濃い藍色から白い部分の繊細なグラデーションが降り積もった雪のやわらかさを感じさせます。染色を担当したBUAISOUによると、伝統的なろうけつ染を応用し、ロウを塗る工程を細かく重ねていく独自の技法によって雪を表現したそう。ミヤケさんはトラフによる都市のスピード感あふれるデザインと、BUAISOUによる手仕事の温もりを組み合わせて、ひとつの世界をつくりたかった、と言います。「この季節のメインイベントであるクリスマスを雪で表現する時に、ステレオタイプのイメージとは異なる新しい世界が浮かび上がるようディレクションしました。大人のエッジを意識した、いまの銀座のクリスマスを資生堂のウィンドウで発信したかったのです」。

子ども時代の思い出をエッセンスに
もうひとつ、ミヤケさんが意識したのはこの季節に人々が感じるワクワクするような気持ちです。水を表す藍色と雪を表す白はどちらかといえば落ち着いた印象。それを引き立てるよう、クリスマスキャンディーの包み紙のように現代的ながらカラフルなストライプで背景を彩りました。「子ども時代を過ごした横浜では、クリスマスシーズンになると欧米の文化がダイレクトにあふれていたんです。例えばお友だちの家や歯医者さんの待合室などには、キャンディーがたくさん入ったボウルが置かれていて、子どもたちはそれらを手づかみして好きなだけ食べてました。クリスマスといえば、ミント、赤、ピンク、そして白い生地を捻ったりストライプにしたキャンディーが思い浮かぶんです。その色彩を抽出して、クリスマスのキラキラ感をメタリックカラーで表現した壁をつくりました」。中央通りのウィンドウに潜んでいるエレメントはストライプ柄だけではありません。ガラスの時計や日めくりの暦は2019年に向かう時の流れを、吊り下げられた靴下や屋根の上の赤いエナメルシューズは女の子のサンタクロースを。ちょっとフェミニンなメタファーが、きりっとしたオブジェに女性ならではの細やかな物語を加えています。

新しい年の新しい章へつながる、徳島スギのオブジェ
花椿通りのウィンドウには、藍色のグラデーションが美しい、雪の結晶と雪だるまをモチーフとしたリズミカルなオブジェが揺れます。モチーフを構成する円盤状のプレートはBUAISOUが本拠地を置く徳島県産のスギ板を丸く切り抜いたもの。それらを甕に浸す回数や時間を計算しながら、微妙な藍色の濃淡の変化が出るように染めました。中央通りのファブリックのスッキリとした発色とは異なり、スギの色や木目と、藍が出合った温かみと深みにぜひご注目を。ポップなデザインと工芸的なテクスチャーという、トラフとBUAISOUの対照的なアプローチがウィンドウの中で融合しています。実はここでも「水」の章から春を表す「木」の章へとバトンを渡すようにマテリアルを意識した、というミヤケさん。2019年へと流れていく時を表現した4つのウィンドウは、銀座を歩くおひとりおひとりが新しい年のストーリーを思うきっかけとなるに違いありません。

藍染のグラデーションを確かめにTHE TABLESへ
中央通りのろうけつ染、そして花椿通りの木の染色を確かめたくなったら、ぜひ4階の「SHISEIDO THE TABLES」へ。ギャラリーコーナーではBUAISOUによるろうけつ染のアートパネルと、藍で染色した広葉樹のけん玉のディスプレイをお求めいただけます。植物の藍を育て、蒅(すくも)をつくり、地獄だてという伝統的な方法で藍の液をつくっているBUAISOUが、藍染でさまざまな作品をつくりながら、独自の表現方法を創造し、新しい工芸の世界を広げていることを感じるでしょう。パネルのモチーフは抽象的ですが、どこか暖かな胎動を感じる作品です。けん玉はちょっとボーイッシュなプレゼントとして喜ばれそう。ぜひ間近でご覧になってみてください。