寄稿文     津木峰子

和室が、心地好い直線で仕切られ、画面手前に広く一部屋、左奥にもう一部屋見える
構図です。ミヤケマイさんの最新作「猫に表具」シリーズの中の一作品『絵に描いた
魚』です。色彩は上村松園の描く女性のかざす傘の柄(がら)を思わせる落ち着いた
和の調和です。襖に描かれた鯉と金魚、その金魚の赤は着物からちらりと見せる襦絆
のように彩りにアクセントを添えています。そして最新作シリーズの主役、掛け軸の
なかで息づく猫たちはこの作品ではニ匹。日本画の中の女性の黒髪に似た優しい色の
黒猫たち。襖の鯉と金魚を眺めています。 たとえば近世ヨーロッパ自然主義の画
家の絵のなかにも羊や牛や馬がこちらに背を向けているものがしばしばあります。そ
れでいて、表情が見えなくても、生き物としての呼吸感、獣毛に覆われた体の表面の
ぬくもりが、背景の森や農場の緑の匂いのする空気とともに十分に伝わってくるもの
です。話を戻して黒猫ニ匹へ。ネコとしての確かな気配を後姿に背負っています。な
にか考えごとをしているようですが機嫌は悪そうではなく、今にも尻尾を左右に動か
し畳を擦る音が聞こえてくるようです。
ミヤケマイさんの描く小動物は時に人物よりも何か言いたげです。それはご自身の感
情をそれらに語らせる手法なのでしょうか。生のままの喜怒哀楽の表現を避けるのは、
ご自身の奥深くに元より備わっている「知性」に因るのでしょう。 そしてもう
一つ、印象的な児童書の挿画の作品があります。全国図書館協議会選定図書になって
いる『トマト魔女の魔女修業』の最終頁。大人へと一歩成長した主人公の少女、鈴
(すず)が髪とスカートを翻し、ひとときだけ見てきた夢の世界を断ち切るように背
を向け画面の奥へ一歩一歩あるいて、このまま見ていたら小さくなって消えてしまい
そうです。それとはうらはらに、夢の世界にいつづけたい気持ちを象徴するように鈴
の肩につかまる子猫の不安で寂しそうな表情。そして鈴の無防備な素足。この挿画か
ら吹いてくる風は胸にせつなくしみてきます。 これからのミヤケマイさんのさら
なる飛躍を確信しています。

画廊勤務 津木峰子さん

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