懐かしき異郷     大谷卓史

ぼくの部屋にはミヤケマイの『夏休み』が飾られている。臙脂に白く梅の花が染め抜
かれた和紙の額装に納められた絵の中では、半ズボン姿で鳥にまたがったネコが捕虫
網をかざし、飛び交う蝶を追いかけて飛び去ろうとしている。ネコも鳥もどこか異郷
へと誘う水先人のようにも見える。
 ミヤケマイの作品は、一見して判るようにさまざまな動物がモチーフとして、そし
てまるで人間のような動作や表情で描かれている。擬人化ということばはたやすい
が、絵の向こうには動物たちが形作るもう一つの世界があるかのようだ。彼らは、ぼ
くらとは別の時間が流れる異郷で生き、呼吸をし、戯れている。そして、その異郷は
どこか懐かしさを感じさせるものが少なくない。
 この異郷には中国風の文物や和の小物が配され?きに懐古調の西洋風の街角も登
場する。どこか日本の片隅にあるだろう海辺の町や、子どもの頃に見上げたようなビ
ル街も目に映る。異郷のリズムや呼吸を作るのは、西洋の寓話や御伽噺、日本・中国
の古諺や語呂合わせである。和の文様や伝統的な表具を生かした額装が、これらの異
郷とこちらの世界との境界だ。絵を描く技法もCGを取り入れると同時に、貼り絵など
の素朴な技法も臆せず取り入れる。
つまり、西洋・日本・中国と空間的な場所を自由に往還すると同時に、時間的にも多
くの要素を取り入れて一つの世界を作り出すことにミヤケマイの作品は成功してい
る。雑多とも言える多くの文物や想念が幸福に同居し、空想的な遊戯に耽る世界が現
出している。
この異郷はどこにあるのだろうか。おそらく彼女が生きてきた時間と空間とがここに
反映されていることは間違いない。そして、この懐かしさはぼくら日本人が生きてい
る世界と心の奥底でつながっているのではないだろうか。そう、この異郷は意外とぼ
くらに近いところにあるようなのだ。どこにもなく、そして、あらゆる場所に遍在す
る――ミヤケマイの作り出す異郷の魅力はここにある。

東京大学先端科学技術研究センター協力研究員/慶應義塾大学文学部非常勤講師
(2003年夏学期)/著述業(科学技術史・情報社会論・情報倫理学専攻)
http://www.venus.dti.ne.jp/~ootani/
大谷卓史

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