新しい「日本画」、新しい「現代美術」   浅井俊裕

ミヤケマイの作品は、マンションの一室や新建材を使った現代的な空間にも違和感なく融けこむ、新しい「日本画」である。いままでの日本画が、伝統的な日本家屋を前提として作られてきたとすれば、また洋画が、西洋館やギャラリーの壁を前提としてきたとすれば、現代の日本の住宅に合った絵画のスタイルが初めて登場した、ということもできるだろう。

ただし、今回の展示の中心となっている《四獣 春夏秋冬 東西南北》は、上海多倫現代美術館で展示したものの本邦初公開であり、個人宅用というよりは美術館のような広い空間での展示を意識して作られた、彼女としては珍しい作品である。この作品のモチーフは、タイトルが示すように、天の四方をそれぞれ司る、と中国や日本で信じられてきた神獣、すなわち、青龍(青い龍)、朱雀(赤い鳥)、白虎(白い虎)、玄武(黒い亀)だ。この四獣(四神)は、東、南、西、北の各方角を治め、色でいえば青、赤、白、黒を、季節でいえば春、夏、秋、冬をそれぞれ象徴している。また、水、火、風、地という属性(エレメント)にも対応している。《四獣〜》では、それぞれの神獣を表す色で表装された四幅が春夏秋冬の順に並び、画中に穿たれた穴から次の作品を覗くと、次の季節のエレメントや神獣が見える仕掛になっている。例えば、夏の絵の穴から秋の絵を覗くと白虎が見える、という具合だ。夏の絵の、火焔の部分に穴が開いているので、重ねて見ると、虎が火の輪くぐりをしているようにも見える、という細かい工夫も忘れていない。

こうした工夫というか、遊び心は、彼女の作品の大きな特徴だ。今回の出品作品で言えば、《ここほれワンワン》では、画中の穴の部分が本当に切り抜かれ、そこからお金が飛び出しているかのように描かれているし、風鎮には、お金との関連で実際の5円玉が使われている。また《飛んで火にいる夏の虫》の場合には、本紙に描かれた炎が、風帯を焦がしているかのような作りになっている。風鎮や一文字など、表装も含めて表現のメディアとしているのである。

このように、モチーフやテーマの選び方、掛け軸や屏風といったメディア、余白の生かし方、平面的な処理、くっきりした輪郭、季節を意識した展示、見立てや言葉遊び等々に日本画の伝統を感じさせながら、現代の感覚をバランスよく表現しているのだ。彼女自身は「本当のところ、おそらくバランスの悪い人間です。今は自分が表現できる方法を見つけたので、多少はましなバランスになってるんじゃないかなとおもいます。」(『おかえりなさい ミヤケマイ作品集』版画廊)と言っているが、彼女の作品や作家としての在り方にはバランス感覚を感じざるを得ない。

それは今回関連展示した様々なグッズにも表れている。「アーティスト・グッズ」と呼ばれるものの多くは、作家の自意識が鼻につくものだが、ミヤケマイのグッズは、発注者の意図を意識しながらうまく戯れ、嫌味のない商品となっている。つまり「アート」と「商品」とのバランスの保ち方が絶妙なのだ。

「現代美術」は、伝統や形式を破壊することそれ自体を目的としがちであったが、ミヤケは、形式をふまえながら、それを躊躇なく乗り越え、新しい自分のスタイルを作っている。その意味では、日本画の新しいスタイルというよりは、「現代美術」に新しい世代が登場した、と理解するほうがよいだろう。

浅井俊裕/水戸芸術館現代美術センター主任学芸員
2005.10.5〜クリテリオム65 リーフレットより転載

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